森に住む生き物たち

琉球列島には多くの固有種が分布しています。なかでも日本の面積の0.1%に満たない面積のやんばるの森に、特に数多くの固有種が生息しています。やんばるは固有種の宝庫です。

やんばるの森に関する解説

固有種の宝庫

  琉球列島には多くの固有種(または固有亜種)が分布しています。各固有種の分布は、琉球列島の中でもさらに限られた島にしか生息しない種がほとんどです。なかでもやんばる(山原)の森は、特に数多くの固有種が生息する固有種の宝庫です。生息域がやんばるだけの種、奄美大島とやんばるにしか生息しない種が、いろいろ生息しています。
 哺乳類のオキナワトゲネズミ(やんばる固有)、ケナガネズミ(奄美諸島とやんばるに固有)、鳥類のヤンバルクイナ(やんばるに固有)、ノグチゲラ(やんばるに固有)、ホントウアカヒゲ(やんばるに固有の亜種)、爬虫類のリュウキュウヤマガメ(やんばると沖縄本島の周辺諸島に固有)、両生類のハナサキガエル(やんばるに固有)、オキナワイシカワガエル(やんばるに固有)、ホルストガエル(やんばると渡嘉敷島に固有)、アオバラヨシノボリ(沖縄島の中北部に固有)、ヤンバルクロギリス(やんばる固有)など、枚挙にいとまがないほど数々の固有種が生息しています。また沖縄本島に生息する動植物のうち、名護以北のやんばるに限定されるものが多いのも特徴です。現在では、大宜味村の塩屋湾以北に、多くの動植物が生息する状態になっています。
*固有(こゆう):ある生物の分布が、特定の地域に限定されることです。例えばハナサキガエルは、沖縄本島のやんばるにのみ分布しています(やんばるに固有)。

遺存固有種オキナワトゲネズミオキナワトゲネズミ(やんばる固有種)
ケナガネズミ固有種ケナガネズミ(奄美諸島とやんばるの固有種)
ホントウアカヒゲ固有亜種ホントウアカヒゲ(やんばる固有亜種)

ヤンバルクイナ固有種ヤンバルクイナ(やんばる固有種)
ノグチゲラ固有種ノグチゲラ(やんばる固有種)
リュウキュウヤマガメ固有種リュウキュウヤマガメ(沖縄諸島固有種)

イボイモリ遺存固有種イボイモリ(奄美諸島と沖縄諸島の固有種)
ハナサキガエル新固有種ハナサキガエル(やんばる固有種)
ホルストガエル固有種ホルストガエル(沖縄諸島固有種)

オキナワイシカワガエル遺存固有種オキナワイシカワガエル(やんばる固有種)
アオバラヨシノボリ並行進化アオバラヨシノボリ(沖縄本島固有)
ヤンバルクロギリス固有種ヤンバルクロギリス(やんばる固有種)


地史的に古いやんばる

 沖縄本島は、地史的に関連の深い奄美大島と共に、非常に古い時代に大陸から隔離されたと考えられています。数万年前という比較的最近まで九州とつながっていたと考えられる北部琉球、数十万年前まで台湾や大陸とつながっていたと考えられる南部琉球では、それぞれ九州や台湾・大陸と近縁種や共通の種が分布しています。それに比べ、奄美諸島・沖縄諸島は、少なくとも200万年前に大陸から隔離されたと考えられており、かなり古い時代に島になったと考えられています。
 大陸から古い時代に隔離された沖縄諸島や奄美諸島では、遺存固有種という固有種が多く認められます。イボイモリクロイワトカゲモドキオキナワイシカワガエルといった動物たちです。俗に生きた化石などと呼ばれる動物たちです。これらは沖縄本島などが大陸から隔離されたのち、大陸側では絶滅してしてしまい、奄美や沖縄本島で保存されたように生息してきました。クロイワトカゲモドキは、ベトナムや中国南東部に近縁種が分布するのみですし、オキナワイシカワガエルにいたっては、近縁と考えられる種が存在しないと考えられています。古い時代に隔離された後、その島々の間での進化が進んだ結果、やんばるは固有種の宝庫となっています。


イタジイの樹幹の写真渓流の水中に産み付けられたハナサキガエルの卵

森と渓流

 多くの貴重な野生動植物が生息・生育するやんばるですが、前ページでお話したイタジイの森と、その谷部に流れる渓流環境が、動植物の生存を支えています。カエルやイモリ、トンボ類、サワガニ類などなど、水に依存するいろいろな動物がみられます。
 沖縄本島には、10種のカエル類(外来種は除く)が分布しています。このうちリュウキュウアカガエルナミエガエルオキナワイシカワガエルハナサキガエルホルストガエル5種が、やんばるの渓流域で繁殖するカエルです。これらのカエルは、森の中を流れる渓流の源流域で繁殖しています。またやんばるの渓流周辺には、オキナワミナミサワガニサカモトサワガニアラモトサワガニオキナワオオサワガニと、4種ものサワガニ類が生息しています。カラスヤンマなど、渓流域で幼虫時代を過ごすトンボ類も豊富です。ノグチゲラの営巣ヵ所も、渓流沿いに集中しています。湿度が高く保たれている渓流沿いでは、ランなど各種の貴重な植物も生育しています。森の中の渓流は、降水量の変動に伴い水量の変動はありますが、枯れることはありません。イタジイの森と、森の中を流れる渓流、そこに多くの動植物が生息・生育しているのです。

やんばるの渓流