沖縄の島々のこと、そこに暮らすカエル達の事、絶滅の恐れがあることなど。沖縄のカエル達の話をちょっと聞いみてください。
● 沖縄の島々 ● 日本と沖縄のカエル達 ● 沖縄に分布するカエル達 ● 人が持ち込んだカエル達 ● 絶滅の危機
● 沖縄の島々
まず最初に沖縄県の地理をお話します。沖縄県は九州から台湾にかけて弧状に連なる琉球列島の一部であり、160あまりの島(0.01km2以上の島)からなる島嶼県(とうしょ)です。沖縄県の面積は2,282.54km2です(2021年4月:国土地理院)。これは日本の面積の約 0.6%にあたります。 最北端は硫黄鳥島であり、沖縄県唯一の火山がある島です。現在無人島となっています。ここから最南端の波照間島(有人島)まで約640kmあります。
沖縄県を構成する島々は大きく、沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島、大東諸島の4つに分けることができます。宮古・八重山諸島を併せて先島諸島と呼ぶ場合もあります。また琉球列島のうち、宮古・八重山地方を南琉球、沖縄・奄美群島を中琉球と呼ぶこともあります。屋久島、種子島など大隅諸島とトカラ列島の一部が北琉球です。 島々の中で最も面積が大きい島が「沖縄島」です。俗に”本島(ほんとう)”と呼ばれています。県土の約5割にもなる沖縄島に、沖縄県人口の約9割が集中しています。世界自然遺産登録され脚光を浴びている”やんばる(山原)”は、沖縄島(本島)の島の北部地域のことです。
● 日本と沖縄のカエル達
ここからカエル達の話に入ります。まず日本に分布するカエルの一覧をごらん下さい。日本国内には、50種(亜種を含む)のカエルが分布しています。在来種46種、外来種4種です。●印のカエルが沖縄県内に分布する種で、○印のカエルが付いた種はトカラ列島以南(渡瀬線以南)の琉球列島に分布するカエルです。▲は外来種です。日本に分布している在来種46種(亜種を含む)の約5割にあたる24種が琉球列島に生息しています。沖縄県内には在来種の約4割にあたる19種のカエル達が分布しています。在来種19種のうち本土と共通して分布するのはヌマガエル、だけです。沖縄はまさにカエル達の楽園なのです。
*和名・学名は日本爬虫両棲類学会の「日本産爬虫両生類標準和名リス」に準拠
● 沖縄に分布するカエル達
下の表は沖縄県内に分布するカエルの分布概要一覧です。沖縄県内には22種のカエルが分布しています。オオヒキガエル、ウシガエル、シロアゴガエルの3種は、人により持ち込まれた外来種です。これら3種を除いた19種が在来種となります。
●印の付き方に注目してみてください。沖縄諸島に●が付いたカエルは、宮古・八重山諸島に印が付いていません。また宮古・八重山諸島に●が付いたカエルは、沖縄諸島に印が付いていません。宮古・八重山諸島と沖縄諸島では、分布している種に大きな違いがあります。日本本土と生息するカエルの種構成が大きく異なるだけでなく、県内でも沖縄諸島と宮古・八重山諸島で分布しているカエルの種が異なるのです。
●印は在来種 ▲印は人為的に持ち込まれた外来種
前之園唯史・戸田守.2007年. 琉球列島における両生類および陸生爬虫類の分布.沖縄両生爬虫類研究会 Akamata No.18を参考にした
● 沖縄諸島
12種のカエルが分布しています。在来種は10種です。リュウキュウアカガエル、ナミエガエル、ハナサキガエル、ホルストガエル、オキナワイシカワガエル、オキナワアオガエルは、沖縄諸島の固有種です。また鹿児島県の奄美群島と沖縄諸島にまたがって分布するハロウェルアマガエルがいます。 山地森林の渓流に生息するカエルが多く見られるのも特徴的です。オキナワイシカワガエル、ナミエガエル、ハナサキガエル、ホルストガエル、リュウキュウアカガエルの5種がこれにあたります。沖縄島(沖縄本島)における5種の分布は、島の北部地域(やんばる:山原)に限られています。
● 宮古諸島
4種のカエルが分布しています。島の面積が小さく、大きな河川がありません。渓流性のカエルが分布せず、分布する種数は多くありません。しかし琉球列島に唯一自然分布するヒキガエル類であるミヤコヒキガエルが生息する特異な地域です。ミヤコヒキガエルは、宮古諸島の固有亜種です。現在は中国などに分布するアジアヒキガエルの亜種とされています。外来種であるオオヒキガエルを除き、中琉球と南琉球にはミヤコヒキガエル以外のヒキガエルは分布していません。
● 八重山諸島
11種のカエルが分布しています。在来種は8種です。八重山諸島は、台湾との共通種や台湾に近縁種が分布するカエルがみられます。アイフィンガアーガエル、ヤエヤマカジカガエルは台湾との共通種です。台湾に近縁種がいるのはヤエヤマハラブチガエルやヤエヤマアオガエルです。ヤエヤマハラブチガエルは、かつて台湾に分布するハラブチガエル同一種とされていました。またヤエヤマアオガエルは、台湾のモルトレヒトアオガエルに近縁であると考えられています。 コガタハナサキガエルとオオハナサキガエルは、沖縄諸島に分布するハナサキガエルと同一種とされていました。現在ではそれぞれ独立種となり、八重山産のものは2種に分けられています。外来種のシロアゴガエルは近年石垣島でも定着しました。
● 大東諸島
3種のカエルが分布しています。しかし3種とも人が持ち込んだカエルです。ミヤコヒキガエル、オオヒキガエル、サキシマヌマガエルが移入されています。
● 人が持ち込んだカエル達
オオヒキガエル、ウシガエル、シロアゴガエルの3種は、人に沖縄へ持ち込まれた外来種です。生態系への影響が懸念されています。3種は特定外来生物に指定されています。
オオヒキガエルは中南米原産です。最初に南大東島に移入され(移入経路、年代不明)、石垣島へは1978年に南大東から持ち込まれました。大型で目の前を動く物は何でも食べるため、在来の小動物への影響が懸念されています。
ウシガエルは北アメリカ原産です。1953年に食用の目的で久米島に移入されました。その後県内各地に分布を広げていきました。1970年代から1980年代にかけては、高密度で生息していたようです。現在ではサトウキビへの転作などによる水田の減少で、ウシガエルの個体数も減少しつつあるようです。ウシガエルが生息する場所では、在来種のヌマガエルが激減しているとの指摘もあります。
シロアゴガエルは東南アジア原産です。1964年に嘉手納町で初めて確認されました。その後分布を広げていき、現在では沖縄本島全域で見られます。やんばるではホルストガエルやナミエガエルの繁殖地で鳴いている個体もいます。また最近宮古諸島や石垣島にも侵入しました。沖縄本島中部を中心に分布を広げていったため、東南アジアから米軍の軍事物資にまぎれて入ってきたと考えられています。
● 絶滅の危機
多様な沖縄のカエル達ですが、彼らの多くの生息状況が必ずしも良好ではありません。19種の在来種のうち10種のカエルが「改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-動物編-」や、「環境省レッドリスト」などに掲載されています。沖縄県に分布するカエルは、特定の島にしか分布していない固有種が多くなっています。また沖縄島(沖縄本島)に分布するカエルには、やんばるに分布域が限定されているカエルも数種います。島嶼に分布する彼らの生息面積は、必然的に非常に狭くなっています。沖縄県の面積が、全国の0.6%ぐらいですから、カエルの生息面積はとても狭いことになります。もともと存続基盤がとても弱いのです。したがって生息域が開発されたり、外来種が侵入したりすると、カエル達がアッという間に絶滅してしまう危険性もあるのです。
固有:ある生物の分布が、特定の地域に限定されること。沖縄のカエルの多くが、「沖縄島固有」であったり、「八重山固有」であったりします。例えばハナサキガエルは、沖縄本島の山原にのみ分布していますし(沖縄島固有)、ハロウェルアマガエルは沖縄諸島と奄美群島にしか分布していません(中琉球固有)。
環境省のレッドリスト:環境省レッドリスト2020の掲載種
沖縄県のレッドデータブック :改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)第3版-動物編-(沖縄県 2017年)の掲載種