*各写真はクリックで拡大表示されます。

● ハナサキガエルとは

やんばるは海抜400m前後の山地が島の脊梁を形成し、それを丘陵が取り囲んでいます。年間降水量の平均は2600mmを越えています。年平均気温は那覇市での観測結果で23℃を超えています。月ごとの平均気温が低いのは12月から2月頃ですが、この時季でも月の平均気温が15℃程度あります。温暖で雨の多い亜熱帯気候の山地に、ブナ科のスダジイなどが優先する照葉樹林が広がっています。山地の谷部はほとんどが渓流となっており、ハナサキガエルやリュウキュウアカガエル、オキナワイシカワガエル、ホルストガエル、ナミエガエルという山地渓流に生息するカエルが分布しています。ここではハナサキガエルの生活史を紹介します。
ハナサキガエルは沖縄島北部地域にのみ分布するやんばるの固有種です。現況では、沖縄島の大宜味村、東村、国頭村の3村に分布がほぼ限られているようです。やんばるの山地の河川では普通に見られるカエルですが、沖縄県レッドデータブックで絶滅危惧ⅠB類、環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類として掲載されています。

体長5~7cm程度、手足が長くジャンプ力の強いカエルです。背面の色が茶色のタイプや緑色のタイプ、茶色と緑のまだらなど変異があります。

● ハナサキガエルの産卵場所

ハナサキガエルは山地森林の渓流周辺に生息しています。比較的自然性の高い森林を好むようです。繁殖期は12月から2月頃です。毎年決まった滝壺や、渓流の流れが緩やかになっている淵で産卵します。写真は産卵が行われる淵です。

● カエル達が一斉に大集合

毎年決まった滝壺や淵に多くのカエルが集まり、一斉に集団産卵します。産卵が行われるピークは一晩や二晩程度の短い期間です。
まずは産卵場所の周辺の林床で雄が鳴き始めます。最初は少数個体が鳴いています。日暮れ後にカエル達が鳴き始めますが、集まる数が増えずになかなか産卵が始まらない年もあります。気温の変動や降雨が関連していると推察されるのですが、タイミングが合ってくると鳴いている雄の数が日に日に増えてきます。やがて雄のカエルが増えてくると水辺に多くの雄が集まりピョッ!ピッ!と鳴き交わします。いよいよ産卵が行われる日が近づいてきました。

● 抱接してペアに

最初はほとんど雄だけが集まって鳴いていますが、鳴いている雄の数が増えた頃に雌も産卵場所に姿を現します。すると雌の背中側に雄がしがみ付き、抱接(ほうせつ)します。後ろから抱きついている小さい方が雄、背負っている大きな方が雌です。一般に雌が雄よりかなり大型です。カエルは体外受精なので交尾は行いません。抱接した状態で雌が卵を産むと雄が精子をかけて卵を受精させます。
産卵場所では沢山の雄がピョッ!ピョッ!とそこら中で鳴き、大変な騒ぎになります。抱接するペアもどんどん増えていきます。産卵のピークはせいぜい数日。多くの雄が集まる繁殖地では、何とか雌とペアになろうと必死です。たまたま通りかかった他のカエルに抱きついてしまう雄もいます。写真はオキナワイシカワガエルに抱きついたハナサキガエルの雄です。カエルの雄は大脳を除去されても脊髄反射で抱接するそうです。こうなるとオキナワイシカワガエルはなかなか開放してもらえないかもしれませんね。

● 水中への移動

産卵場所周辺で鳴いている雄がピークに達すると、水中に移動して待機する雄も増えてきます。包接したペアも産卵のために滝壺や淵の水中に移動します。すると水中で待ち構えていた雄達が包接したペアに集まってきてどんどん抱きつくことがあります。交尾ではなく、産卵した卵に精子をかけるだけです。抱きついてしまえば卵を受精させるチャンスがあるかもしれません。写真のように包接したペアに数個体の雄が一斉にしがみ付き、カエルの団子になって立ち往生する事もあります。中には死んでしまう雌もいます。写真のように死んだ雌にしがみ付き続ける雄もいます。

● 産卵

いよいよ産卵が始まります。岩の壁がオーバーハングした部分の窪み、水底に沈んだ石などに塊で産み付けます。雌が岩肌に体の後方を押し付けるようにして卵を産み付け、抱きついている雄が受精させます。産卵のピークは1、2日程度です。短期間に一斉に産み付けます。集団産卵が終わった直後、沢山のペアが一斉に産み付けた大量のクリーム色の卵が水中で揺らめいておりとても神秘的です。産卵時は大混乱のようで、誤って陸上の落ち葉に産み付けられた卵もありました。この卵はふ化しませんでした。

● 命がけの産卵

多くのカエルが集まる産卵場所には危険もあります。何故か事前にヒメハブがハナサキガエルが集まりはじめる事を察知し、先に産卵場所に集まっている事があります。カエル達がどんどん集まってくるのですから、ヒメハブにとっては最高の狩り場です。複数のヒメハブが産卵場所に陣取って、産卵行動に夢中になっているハナサキガエルを次から次へと捕らえて食べています。1段目右の写真はヒメハブから逃れたものの、皮膚が大きく傷ついたハナサキガエルです。こうなると野外で生き残るのは困難であると考えられます。ヒメハブ以外にも捕食者がいます。大型の地上徘徊性のクモであるオオハシリグモもその一つです。ハナサキガエルやリュウキュウアカガエルなど、渓流性のカエルを捕らえている姿を時々見かけます。また何に襲われたのか不明ですが、卵や内臓が林床に散らばっていた事もありました。

● 卵のふ化

産卵が行われてから2週間ぐらい経つと、卵の発生がかなり進みオタマジャクシの形になってきます。そしてふ化が始まります。ふ化した直後のオタマジャクシはまだ眼が未発達で全身クリーム色です。ふ化したばかりのオタマジャクシは卵のゼリーに集まっています。しばらくはお腹の卵黄の栄養で過ごします。またふ化したばかりの幼生にはまだ外鰓があります(2段目右の写真)。外鰓はやがて消失します。体色はやがて褐色になっていきます。やんばるの綺麗な渓流の中で成長していきます。

● 上陸そして成長

冬季にふ化した幼生は夏前ぐらいに上陸するようです。オタマジャクシから上陸したばかりの、まだ尾がある亜成体を目撃した事があります。野外でのオタマジャクシ(幼生)の生活は不明な点が多いのですが、この上陸個体は産卵場近くで見かけたものです。産卵が行われた滝壺や淵などの周辺でオタマジャクシも暮らしていると思われます。また夏や秋に小さな爪先ぐらいの小さな個体を目撃した事もあります。
写真のような体長1cmほどのサイズから、産卵に参加するサイズに成長するまでの中間的なサイズのカエルを野外で見かける機会がありません。どのぐらいの期間で産卵に参加できるサイズに成長するのか、また成長した後に何年ぐらい生きるのか。まだまだ知らない事が沢山あります。

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