様々な危機にさらされている森ですが、保全に向けた取り組みも始まっています。
やんばるの森は、昔から人々の生活に利用されてきました。激しい収奪が行われた時代もあったようです。やんばるの森を歩くと、あちこちにかつての炭焼き跡や、耕作地の跡が残っています。やんばるの森には原生林は残っていません。木材や薪炭として、中南部へ山原船により運んでおり、与那原町などその寄港地として賑わっていたようです。
第二次大戦後など、かなりの規模で伐採が行われていたようです。古い時代のやんばるの写真をみると、畑や伐採地が広がり、かなり森が減少していた様子が伺えます。
時代の移り変わりに伴い、薪炭から、石炭、ガス、石油、電気と生活のスタイルも変化しました。
国頭村辺野喜周辺の空中写真 1962年10月撮影
国頭村与那周辺の空中写真 1962年10月撮影
現在のやんばるの森に影響を及ぼす要因として、様々な開発、野生の動植物の採集、交通事故などがあります。沖縄島は沖縄県最大の島で、沖縄県の人口の9割がこの島に暮らしています。以前は夏場などに断水がありました。特に那覇市、浦添市、宜野湾市、沖縄市、糸満市など、島の中南部に人口が集中しています。私たちの生活を支えるため、やんばるの森などにダムが建設されています。道路では、小動物が交通事故で轢死する事もあります。
雨が降ると、農耕地や荒れ地などから赤土が流出している河川もあります。レジャーでやんばるを訪れる人が増加するにつれ、ゴミも目立つようになりました。湧き水を汲みに来て、そこにゴミをすてる人もいます。林道沿いなどにストッキングや台所の水切り袋がぶら下げてあるのを見かけます。昆虫採集のために設置されたものです。回収されず、いつまでもぶら下がっている事があります。大木に登るために、足場となるクギを打ち込む悪質な者もいるようです。また園芸目的のランなど盗掘により、ランなどの植物が野生絶滅の危機に瀕しています。
全国的に外来種の問題が深刻化していますが、沖縄でも多くの外来種が問題となっています。外来種は、環境破壊の原因としては非常に目立たない存在です。しかし確実に生態系を蝕んでいく恐ろしい存在です。外来種移入種の危険性は認識しづらいため、外来種駆除に対する反対が出る場合もあります。
島嶼(とうしょ)県である沖縄では、海外や県外からの持ち込みだけでなく、県内の島間での生物の移動にも注意を払う必要があります。
①本来沖縄に分布しない種を移入する危険性。
②沖縄のある島に分布する種を、別の島へ移動させる危険性。
外来種は、下記のような問題を引き起こします。
*捕食:マングースやノネコによるヤンバルクイナの捕食など。
*在来種との種間関係:カダヤシの持ち込みでメダカが激減。餌やなわばりでの争い。
*遺伝的汚染:異種間交雑、同種であるが別々の場所に分布する集団間での交雑。
*寄生虫の持ち込み、人畜共通感染症の伝播:マングースによるレプトスピラ症の保菌など。
*人・産業への影響:毒を持つ動物による咬症被害、農作物の食害。シロガシラによる野菜の食害、タイワンハブによる咬症など。
*未知の影響:現在想定していない(できていない)影響。マングースを放逐した時代には、マングースによる在来種の捕食も未知の影響でありましたし、近年まで遺伝的汚染も未知の影響でした。未知の影響こそ最も恐ろしい影響かもしれません。各生物の生態など、私たち人間は自然界の一部を知り得ているに過ぎません。安易な生物の移入は、人間が認識できないうちに、自然環境に深刻で回復不能なダメージを与える可能性の秘めています。持ち込まないこと、それが一番大切な事です。
現在沖縄県内には沢山の動植物が持ち込まれています。これらが在来の動植物にどのような影響を与えているか、よくわからい部分もあります。生物どうしの関係は”食う、食われる”といった科書にピラミッドとして図示されているような単純な関係ではありません。とても複雑で、実に微妙なバランスの上に成り立っています。気がついたときには、在来種が外来種によって駆逐されていた、ということになりかねません。駆除にかかる費用など、経済的被害も甚大なものがあります。外来種は持ち込まないことが大原則です。
平成8年度に、(財)日本野鳥の会やんばる支部が、大国林道(総延長35.5km、幅員4.0m、国頭村与那から大宜味村大保に至る、全線舗装された林道)でノネコ・ノイヌの糞を調査しました。その結果、林道からなんと56個もの糞を採取しました(ノネコ・ノイヌの糞は区別が困難なため、まとめて扱っていますが、そのほとんどはノネコのものと推察されます)。その糞を分析した結果、下の表に示すような貴重動物が検出されています。
現在沖縄本島で確認されている外来種は、陸上の脊椎動物だけでも、クマネズミ、ドブネズミ、ノネコ、ジャワマングース、カワラバト(ドバト)、シロガシラ、コウライキジ、シマキンパラ、キンパラ、コシジロキンパラ、ミシシッピアカミミガメ、スッポン、ミナミイシガメ、セマルハコガメ、ホオグロヤモリ、オガサワラヤモリ、グリーンアノール、タイワンスジオ、タイワンハブ、サキシマハブ、シロアゴガエル、ウシガエルといったものが定着しています。安易な生物の移入をやめ、移入された生物の駆除を進めないと、大きな影響を与える危険性があります。
*特定外来生物・要注意外来生物:外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)にもとづき、特定外来生物に指定されています。詳しくは環境省の関連サイトをご覧ください。
やんばるの森の重要性は県内でも理解が進み、まだ十分とは言えない部分もありますが、保全に向けた取り組みも始まっています。国頭村には、環境省のやんばる野生生物保護センターがあり、ノグチゲラなど希少生物の調査研究もはじまっています。また外来種の捕獲排除も行っています。沖縄県でもマングース、ノネコの捕獲排除に取り組んでいます。民間レベルでは、NPO法人などによる自然観察会などの活動も行われています。 (財)日本野鳥の会やんばるでは、自然観察会の実施などで、やんばるの森の保全に対する理解が進むよう啓蒙活動を行っています。企業からの支援で保護区を設けている団体もあります。地元では、自然、歴史、文化など地域の資源を適正に利用しようという動きもでています。
各種の事業でも、やんばるが重要な地域であるとの意識が出てきており、対策も施されつつあります。
特定外来生物タイワンスジオの生息調査に伴う買上げの実施について:環境省
平成26年度沖縄島北部地域におけるマングース防除事業の実施結果及び27年度計画について(お知らせ):環境省
「やんばる型森林業」の推進に向けた施策方針について:沖縄県