イタジイの森

やんばるの森は、ブナ科のイタジイが優占する常緑の照葉樹林です。

やんばるの森に関する解説
国頭村奥の気象データ

温暖で湿潤なやんばる

 亜熱帯の沖縄は温暖な気候です。年平均気温は、那覇市での観測結果で23℃を超えています (*1)。左の折れ線グラフは、国頭村奥の気象観測データ日平均気温 (*2) を基に作成したものです。最も平均気温が低いのは、12月、1月から2月頃です。一番寒い時季でも、平均気温が15℃程度あります。最も暑いのは7月、8月頃ですが、この時季の平均気温は27℃弱です。年間を通して寒暖差が小さく、過ごしやすい気候です。

 雨量を国頭村奥の気象観測データ (*2) でみると、1997年から2016年の年間降水量の平均は、2600mmを越えています。左の棒グラフは、国頭村奥の 1997年から2016年の平均値 (*2) を基に作成した降水量の月別推移です。 雨の多い時期は、5月から6月の梅雨期、晩夏から秋の台風が多い時期、そして3月から4月頃、気圧の谷が次々と通過していく”うりずん”と呼ばれている時期です。
このような温暖で雨の多い亜熱帯気候の山地に、ブナ科のイタジイ(スダジイ)が優先する照葉樹林が広がっており、まさに”山原”と呼ぶにふさわしい景観となっています。
*1 第58回沖縄県統計年鑑 平成27年版による
*2 気象庁国頭村奥の統計資料による


イタジイの樹幹の写真イタジイの樹冠

イタジイの森

 やんばるの森は、ブナ科のイタジイが優先する常緑の照葉樹林が代表的な森です。このイタジイの森が、ノグチゲラやイシカワガエルといった貴重な動物たちを育んでいます。イタジイは、スダジイが正式な和名ですが、このサイトでは沖縄で一般的に使われているイタジイを使っています。
 イタジイは、木の高さ約20m、幹の直径1mに達する常緑の広葉樹です。丸みがある大きな樹冠をつくります。実(ドングリ)は長さ13~17mm、幅10~13mm程度です。
 やんばるの森は、優占しているイタジイ(スダジイ)をはじめ、タブノキ、コバンモチ、カクレミノ、イスノキなど、本土の照葉樹林と共通の樹種が多い森です。日本のシイ林は、琉球列島にみられる亜熱帯性のシイ林と、九州から本州の福島県あたりにまでみられる暖温帯性のものに分けることが出来ると考えられています。やんばるの森に代表されるような亜熱帯性の森は、ヒカゲヘゴのような木性シダ類が生えている点、林床に生えるシダ類の種数が多い点、クワズイモなど背の高い草本が生育している点で、本土の森とは異なります。

木性シダのヒカゲヘゴの写真木性シダのヒカゲヘゴ
 右の写真で、並んで生えているのがヒカゲヘゴです。恐竜時代を連想させるような、10m程にもなる大きなシダ類です。また下の写真は、イタジイ林の林内です。この写真のように、林床はシダ類などが茂っています。
 やんばるの森は、貴重な動植物が生息している点がクローズアップされることが多いのですが、森自体も大変貴重な存在です。まとまった面積のあるシイ林は、やんばる、石垣島、西表島、奄美大島などの琉球列島の他、宮崎県の綾町など限られた場所を残すのみです。かつては、暖温帯はシイを中心とした照葉樹林に覆われていたと考えられていますが、人の生活に伴って伐採され破壊が進んでしまいました。
 琉球列島や日本本土が位置するあたりは、地球規模でみた場合、熱帯付近から極に向けて森林が縦に連続した地域です。このような地域は地球上でも少なく、私たちは、地球規模の貴重な緑の回廊を預かっていると言えます。
 また沖縄と同緯度にある南・北半球をみると、サバンナや砂漠など乾燥した気候帯が主体です。亜熱帯気候で森となっている地域は少ないようです。やんばるの森は、森自体が世界的な価値を有する森なのです。

やんばるの森の林内林床シダ植物